麻雀番組視聴録

麻雀番組Mリーグ,RTDリーグの事など

ジレンマ

 RTDリーグ2018準決勝が終了した。鈴木たろうp,小林p,内川p,瀬戸熊pが決勝進出となった。選手、誰にとっても厳しい戦いであったが、ある意味そのために麻雀プロをしている面もあるはずなので、それは本望だろう。ただ、最終日を目無しで打った猿川pにとってはそういったやり甲斐とは遠い辛い試合であっただろう。そして、それは最終日を断トツトップで迎えほぼ何をしても決勝進出が決まっていた、たろうpも同様であったように思う。

 

 ゼウスというこれ以上はない大仰な呼び名にも、独創的かつ豪放、それでありながら理に裏打ちされた打牌の前では誰も異を唱えない。しかし、卓を離れた時のその振る舞いは、意外に優しいを通り越して臆病にすら見える。既に断トツだった準決勝3日目の清老頭。Abema TVのコメント欄も最大限に盛り上がった和了。後日、放送された楽屋裏での第一声は、照れ隠しもあろうが、「空気読めない和了でコメント欄で叩かれてないかな」とのものだった。そもそも、清老頭和了自体、その自摸は強打とはまったくかけ離れた、500-1000でもあるかのような優しいものだった。

 

 準決勝の順位が上の選手には決勝戦終了時に同点の場合、優勝というアドバンテージが与えられるが、8試合の決勝で同点となった事は聞いたことが無い。やはり、準決勝で選手が目指す唯一絶対の目標は「8人中上位4人に日入って決勝進出する」しかない。たろうpは最終日の3戦、トビラス3回でもさらに余程の不幸がない限りこの目標を達成できる。

 

 準決勝最終日の初戦、前回の記事で危惧した通り絶好調の内川pにかなり余裕のあるトータル2位の小林pが放銃しラスになる展開となった。そして南2局、親番で内川pが抜けたトップになり2~4位の佐々木p,たろうp,小林pが競りの状態となる。ここで、小林pに打5ピンで4-7ピン待ちの役牌ドラ3の面前聴牌が入り、たろうpが既に鳴いて聴牌を入れていた内川pをケアして4ピンを放銃した。これが決定打になり内川p-小林p-佐々木p-たろうpの順で終局する。

 

 半荘終了後のインタビュー、聞かれるともなく、落ち込んだ様子で、たろうpは「打5ピンで小林pに聴牌入ってるとは思ったんですが...」と語っていた。しかし、ラス落ちとなったその放銃は、はたして落ち込むような失着だっだのだろうか?前述した通り、たろうpが目的である決勝進出を果たすためにはトビラス3回で対局を終わらせることなのだ。それなら、あの南2局、いや最終日の全ての局でたろうpのやるべき事は「親に連荘されて大量失点しない」つまり「自分、もしくは子の和了で局を進める」といっていい。ならば、ラス落ちしながらも局を進めた打4ピンは失着どころか正着だ。少なくとも悪い手ではない。インタビューでも胸を張って「局を進められて良かった」と言っても良かっただろう。

 

 多分ではあるが、たろうpの方がよっぽど、あの放銃が決勝進出という目的に対して、本当にどうでもいいわずかな差で、正着である事は分かっていたのだと思う。それでもインタビューではあまりに申し訳なさげだった。きっとそれは、あの放銃のもう一つの面も分かっていたからであろう。それが自分の目的達成にほぼほぼ関係なく、にも関わらず、小林pの決勝進出を確定させ、他の選手の決勝進出、特に同卓している佐々木pの決勝進出を極めて厳しいものにする事を。自分の勝利のためならまだしも、あまりにささやかな自分のための選択で、他者に大きすぎる影響を与えた事を。

 

 続く最終日のたろうpの第2戦。ボーダーを争う他の選手が驚異的な大物手の聴牌からの和了牌のビタ止めを連発する中、決勝進出という目的のために放銃してでも親を流すという正着を積み重ねる。

 

 そして、たろうpの最終戦、自身は箱下10万点でも決勝進出、勝又pが奇跡的な超大トップをとって決勝進出なるかという半荘。東一局で子の勝又pのリーチ。親の内川pが降りたか廻ったかを見て、たろうpはドラそば間3ピンのドラ1リーチを打った。常日頃から強いリーチが多く、超大トップが必要な安かろうはずがない勝又プロのリーチに対して、局,半荘単位の期待値ではいくらなんでも損だろう。それでもリーチを打ったのはもちろん決勝進出という最大の目的のため、親の内川pを完全に降ろすためだ。勝又pに満貫,ハネ満,倍満を打っても構わない。

 対局の目的に視聴者からのイメージというものを含むのであれば、こんなリーチ打つべきではないだろう。良くて和了したところで「さすがたろうp、荒らすなぁ」と笑われるだけだろうし。最悪、放銃し、内川pに準決勝トップを取られたら「たろうpは何やってんの」と誹られるだろう。逆にリーチを打たず、消極策で神懸かり的な絶好調の内川pにまくられても「内川pの勢いが凄い」で終わるだろう。それでも、たろうpは決勝進出という目的のため半荘単位の麻雀からすればあまりに歪な間3pリーチを打った。おそらく、最早、目的達成のためですらない。自分はどう打とうと決勝進出でも、究極的なまでにそののために打たなければ、人生を賭けて戦っている他の選手に、どうしたってあまりに大きな影響を与えてしまうことに申し訳が立たなかったのだろう。

 

 決勝戦、基本的には、たろうp,小林p,瀬戸熊pというトッププロの中でも最上位のプロ3人に内川pが挑むという構図に見える。ただ、こと精神面でいえば、鬼やマシーンといった類の瀬戸熊p,小林p、そして、本質はただの好青年であろうが、少なくとも今は神懸かり的な状態に有る内川pに比べ、あまりに、たろうpは凡庸で優しく思える。それでも、決勝では、少なくとも最終戦の親が落ちるまでは、自身の勝利を目指して誰憚ることなく打牌できるだろう。

 神の域に達した打牌選択を行う普通の男が、怪物といっても過言ではない三人を相手にどのような戦いを見せるのか、期待して待ちたい。

 

以上

 

 

 

不安

 明日、RTDリーグ2018の準決勝最終日が行われる。

 

 小林pはボーダーと180pt離れており、残す3戦3ラスでも決勝に行けるかもしれないという圧倒的に有利な2着につけている。その腕を信頼するファンなら安心して放送を待って良いだろう。

 

 だが、多くのコバゴーファンが不安な気持ちを抱えていると思う。思えば、RTD予選での圧勝に影を潜めているが、今年、小林pは数々の勝負弱さを見せてきた。

 

 麻雀駅伝予選では、再三、勝負を決める聴牌を入れるも和了れず、RMU・松ケ瀬pに敗北する。藤田社長とスリアロチャンネルの番組放送権料を掛けた麻雀ミリオネアでは最終半荘、藤田社長から12,000、8,000を直撃しながら、オーラスの和了勝負で負ける。Mリーグでも初戦の18,000放銃に引き続き、先日も断トツのTOPから追っかけリーチの24,000を放銃しTOPを取り逃がす。

 

 RTD準決勝では巧妙、あるいはツイてる着順取りを見せ、戦前「ポイントを守りながら、4位でもいいから通過する」と語った通りの展開を作り出している。それでも、決定的なトップ獲得のチャンスが有りながら、上手く転がり込んでこない。

 

 何よりコバゴーファンを不安にさせているのは、正月に行われたRTD駅伝で小林pが最下位だった占い結果だろう。普通なら、くだらないと一笑に付される話だが、占い結果1位だった内川pが予選では断トツの最下位から驚異の浮上で予選通過し、十段位を取り、準決勝2日目終了の時点では最下位でやはり駄目かと思ったら3日目に驚異の浮上で3位に付けているという事実が、小林pに最悪の展開が訪れるのではないかと嫌が応にも不安にさせられる。

 

 こうした結果論,こじつけによる不安とは小林pは最も遠い人だろう。きっと明日、平然と決勝に進出するだろう。それでも、そのファンは不合理な不安を抱える。なんとも可笑しな話である。

 

以上

 

溜息

 ああ、またか。

 10/5のMリーグ第7戦、18,000確定立直が空ぶった後の東3局、ラス目のU-NEXT・石橋pは親リーチを受けながらも混一色でドラを含む危険牌を何枚も通していく。それでも残りツモ番1回、無筋の4ソーを掴みこれは切れないと發で渋々降りた次順のラスヅモ、まさに前順まで和了牌だった發を最悪のタイミングでツモった場面を見て、多くの石橋ファンが思ったことだろう。

 

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 Abema 麻雀チャンネルで"不運な局ランキング"を作れば、石橋pが数多くランクインするように思う。

 RTD2017では2度の国士放銃。

 RTD2018で"勝又サービスセンター"の語源となった局では、トップ目の勝又pにあえて和了牌を示す空切りを行いファインプレーかと思われたものの、これが仇となり、前に出るしかなかった平賀pに流石にこれはと和了牌を止められ、結果、着順を落とす。

 他の選手にももちろん不運だった局は有るだろうが、こうパッとは思いつかない。

 

 若くして、最高位,發王,MONDO杯というビッグタイトルを獲得したものの、RTDで3年連続、大きくマイナスするなど、ここ数年は数々のチャンスを与えられながら結果を出せていない。それでも、ここまで"たかが"麻雀に深い考察がなされるのかと、徹底した戦術書でありながら、ある種の感動すら感じる、石橋pの著作,"黒いデジタル麻雀","進化するデジタル麻雀"を読んで、誰が石橋pが弱いと、少なくとも努力していないなどと思うだろうか。石橋pほど純粋に麻雀が強くなりたいという気持ちを持っているプロは数少ないだろう。

 

 もちろん、昔はツイていただけ、センスがないというだけかもしれない。それでも、不調に理由を見出そうとするなら、あまりに強さを追い求める姿勢、「勝つためにできることはなんでもする」といったストイックさが無情にも結果を遠ざけているように思えてしまう。思えば、RTDリーグのベテラン勢、多井p,瀬戸熊p,村上p,たろうp、強さに拘る彼らの中でも、勝つためになんでもすると公言するのはたろうpだけだろう。「なんでもする」、言うのは簡単だが、面前で進めれば手が遅れ、鳴けば安くなり守備が落ちる麻雀においては、勝つためだけなら、限られた人生、いっそ特定の技術にだけ特化してしまった方が良いかもしれない。

 

 そんなことは、現代的な麻雀からすれば異端といっていい程、副露率の低い、それでも結果を出してきた同団体の村上p、そして他団体の瀬戸熊pに対し、学ぼうとする姿勢やリスペクトを解説などで明らかにあらわしている石橋pの方がよっぽど分かっているだろう。それでも、結果に繋がらなくとも、石橋pはこれから先も彼の思い描く強さのためあらゆる技術を磨いていくだろう。村上pを称して、良く麻雀バカといわれるが、黒いデジタルと称される石橋pもまた、形は違えどもその類の男なのだろう。

 

 10/9の第11戦、ラス目で迎えたオーラス、18,000も有る親の仕掛けを必死に躱して、ラス回避した片上がりタンヤオ三色赤を見て、ああ、如何にも石橋pらしいなと、そんな風に思わされた。

 

以上

変化

 10/2に行われたMリーグの第4戦。

 KONAMI・佐々木pは發を仕掛けたドラ1の手で、目一杯に取らずの打・三万で安全な東を残す。

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 次順、聴牌を逃す6筒ツモでやはり目一杯には取らずの打・6筒。

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 最近では聴牌効率よりも受け、最終形の強さが重要視されるようになったように思う。両局面で東を切る選手はいても、それが絶対とは言わないだろう。ただ、このシーンを見て、一人だけ、「こんなの俺は絶対に東を切るよ」と言いそうな選手が思い浮かんだ。他でもない、巷間の麻雀でとにかく攻めの麻雀で圧倒的な成績を残し、半ばスカウト同然に連盟に入会した、かつての佐々木pだ。

 

 少なくとも大人になったということではあろうが、この変化を進化ととるか、退化ととるか。RTDやMONDOでの佐々木pの抜群の成績を見れば、そしてMリーグKONAMI 麻雀格闘倶楽部にドラフト1位で指名されたことを考えれば、やはり進化なのであろう。

 

 ただ、それでもひたすらに身勝手なことを言えば、無邪気な攻めの麻雀でそれでも強かったのに、更に進化した佐々木pを見てその強さに驚嘆するとともに、一抹の寂しさを覚えるのであった。

 

以上

敗退

 10/6にRTDリーグ 2018の準決勝3日目(全4日)が行われた。

 8人中4人が決勝に進めるこの準決勝、3日目終了時点にして猿川pは-120ptとなった。進出ボーダーが現状100pt付近であり、残り2半荘、決勝進出のためには80,000点近くの2連勝が必要となり、4日目を残し、実質的な目無しとなった。

 

 猿川pはRTDリーグ出場選手の中でも1,2位を争うくらいの無愛想さではあるが、その中にも不思議な愛嬌はあるとは思う。また如何にも感覚的に見える打牌や仕掛けを見事に成功させる魅力的な選手ではあるとは思う。それでも、やはり筆者からしてみると応援したいと思う選手ではない。

 

 それでも、3日目の最終半荘後、残り1日,2半荘を残して決勝進出が絶望的になった際のインタビュー。普段は勝っても負けてもむっつりとして筆者レベルでは良く分からないことをボソボソ喋っているくせに、ある種、晴れがましいとさえ見える笑顔を浮かべ、「最終日、試合を壊さないようにしっかりと考えて対局に臨みたい。」と答えている様を見ると、自然と「良くやったよ、残念だったね」という気持ちが湧き上がっていた。

 

 思えば、予選最下位からのギリギリでの準決勝進出、そして、最終戦を前に敗退が決定するという流れは、RTDリーグ2017と全く同じであり、今年こそは決勝と臨んだであろう準決勝で、同じ轍を踏んでしまったということは何よりも悔しい結果であろう。

 

 そして、このRTD準決勝、猿川pそして内川pにとって、他の選手よりはるかに重要であったと思う。

 この両名以外の準決勝進出者は皆、Mリーグに選ばれている。優勝とまではいかないまでも、決勝に進出さえすれば、ただでさえRTD選手ということで他のプロに比べれば知名度は高いのだ、2019年のMリーグドラフトでの指名は確実であっただろう。最高峰の舞台、Mリーグへの出場権をこの準決勝の惨敗で逃してしまったとしたなら、悔しいでは済まない。

 かたや、Mリーグへの挑戦が掛かっていたもう一方、猿川pと同年代の内川pは団体対抗戦で活躍し、若くして鳳凰位戦A1リーガーになり、更には今年、ビッグタイトル十段位までもを獲得した。なにより男性麻雀プロの中でも抜群の容姿を持ち、正直、何の実績もなくてさえ、ドラフトで選ばれていてもおかしくはない選手だ。今年、選ばれなかったのは、一重に、本来セールスポイントであるはずのRTD出場において、2017年そして2018年の途中まで成績が全く振るわなかったからに過ぎないと思う。そういう意味では、内川pは仮に来週の4日目決勝進出を逃したとしても、既に3日目終了の段階でRTD準決勝でいい勝負をしたことは確定しているため、来年度のMリーグのドラフト指名は獲得したものと筆者は考える。

 

 同年代のライバルとも戦友ともいえる選手が数々の実績を積み重ね、更なる栄光に挑戦しようとする半荘に、その挑戦権も潰えた選手が目無しとして同卓しなければならないとは、なんと残酷なことだろうか。RTDリーグ準決勝4日目での猿川pの苦しさを思うと、苦境が人を育てる等という軽挙なことはとても言えない。それでも、苦境を乗り越えさえしなくとも、猿川pは他の麻雀プロにとっては羨望の舞台、RTDリーグ 2019に参加できるのだ。そこではまた、筆者にとってのヒールとして猿川pらしく糞生意気でふてぶてしい態度、そして打牌を見せてほしいと願う。

 

以上

 

 

気骨

 いい年をしたオッサンが、やはりいい年をしたオッサンのファンであることを公言するのは、やはり気恥ずかしくてプロフィールには書かないが、筆者はU-NEXTの小林pのファンである。だから、本ブログでの小林 剛pに関する記事は、ほとんど提灯記事であることをご承知頂きたい。

 

 さて、前回の記事と前後するが、10/1のMリーグ開幕戦はそれにふさわしく様々な見せ場のある試合となった。

 

 おそらく最も無名でありながらドラフトで1番に指名された実力派プロのドリブンズ・園田pの実戦的な喰い仕掛けに始まり、雷電・萩原pの独創的な七対子、U-NEXT・小林pの7万点に達する5連荘、初戦から箱を割り普通なら心が折れるところをしっかりと小林pの親リーチに踏み込み連荘を止めたセガサミー・魚谷pの満貫と枚挙に暇がない。

 

 南3局、園田pの親番、持ち点はトップ目の小林pが59,100点、2番手の園田pが26,300点。小林pはピンフ赤1の見えるそこそこの好配牌で第1打からドラの白を切り出していく。

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 誰も仕掛けを入れていない6巡目、手はさらに整い、再び訪れた白を当然ツモ切り。

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 しかしなんと、この白が園田pの面前混一色發赤ドラドラの親跳満18,000に放銃。

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 この直撃が決め手となり、一時は7万点に達し、トップは確実と思われた小林pはこの半荘2着で終えることになる。

 

 あらゆる視聴者に向けたプロの放送対局なので、当然といえば当然だが、断トツのトップ目からのこのドラ切りについて「そんな打牌をするからまくられた」「これはない」,「ぬるい」,「下手」といった評が見られた。

 

 小林p自身はツイッターでこのドラ切りについて問題無しと振り返っていた。ただ、もちろん、「自分は正しいと思う」というだけで、「絶対にドラ切りが正しい」というコメントではないだろう。

 

 きっと、アマチュアの方が「ドラを切りたくないんですが」と聞けば、「切らなくても問題ないですよ」と答えるだろう。

 若手プロが「あの局面でドラを切るのは怖くないですか?」と問えば、「怖いは打牌選択理由にならないよ」と答えるだろう。

 誰かがキチンと「2番手の園田pの親満ツモ2回に耐えられるのだから、ドラを切るべきではない」と主張すれば、小林pもその可能性も有ると議論に応じるだろう。

 

 あのドラ切りが正しいかは、少なくとも現時点ではだれも絶対的には分からないというのが実際だろう。

 ただ、1つ確かなことがある。断トツのトップ目、少なくとも聴牌まであんなドラを切りだしていかなければ、例え園田pの連荘,あるいはあの局で「リーチツモ混一色發赤一通裏3」の親三倍満12,000オールで逆転を許したとしても、「ついてなかったね」,「あれは仕方がない」で終わり、「ぬるい」等と誹られることはなかったということだ。あるいはリーグ戦の結果、あの時の小林pの手牌で見えた「リーチ平和赤裏」の8,000点分足りず予選突破や優勝を逃しても、誰も指摘しないだろう。

 

 打牌について人がどのように評価するか、数々の放送対局に出演,運営協力している小林pなら、誰よりも良く知っているだろう。ドラを切らなくても何とかなるケースも十分にあることも誰よりも知っているだろう。ましてや、麻雀史上、最も注目を集めた対局ともいえる半荘、リスクなど何一つ取りたくないのが普通だろう。それでも小林pはドラを切った。

 

 昨今、止むことなく日本企業の不正が紙面を賑わしている。しかもそれは、横領したとかではなく、製品の検査結果を偽造したといった、一見ではそんなことして不正を行った担当者に何の得が有るのかといった類のものだ。ただ、同様の組織に属する筆者からすればその行動原理は明らかで「トラブルに巻き込まれたくなかった、上司に怒られたくなかった」という保身であろう。だが、担当者はきっと不正について問われて、こう嘯くだろう「会社のためにやった」あるいは「家族のためにやった」と。

 

 ただ、筆者は組織に抑圧され不正に走った担当者を、もちろん、もちろん正当化することは出来ないが、同情を禁じ得ない。不正だろうと、バレた結果の言い訳に会社や家族を持ち出そうと、人間なのだ、保身もするだろう。不正をすることは自身の保身にすらならないと言われようが、成果を出さなければ恫喝されパニックに陥れられ、解雇されることもある社会で、一体何を正しいとして従えというのか。多かれ少なかれ組織・社会に属する抑圧された側の人々の多くが、不正まではいかなくとも、不本意な選択を迫られていることだろう。

 

 麻雀の対局でも同じことはないだろうか?

 社会における「不正を行ってはならない」は対局において「対局者はルールの範囲で勝利に全力を尽くす」にあたるだろう。「ファンのため」,「魅せる麻雀」実に結構。だが、「ファンのため」,「魅せる麻雀」と嘯き、「勝利に全力を尽くす」ことをないがしろにし、実際には「保身のための言い訳の利く打牌」といった身勝手でありながらファンに責任転嫁するよう打牌をしていないだろうか?

 

 小林pの断トツのトップ目からのドラ白打ち。正しいのか間違っているのか筆者には分からない。ただ、小林pは最大限「勝利に全力を尽くし」、「保身のための言い訳の利く打牌」をせず、自信や勇気あるいはその両方を必要とするドラ切りをMリーグ開幕戦という大舞台で行った。時として組織において不本意に自分を曲げることもある筆者にとって、その打牌は十分に憧れを感じさせるものであった。

 

 普通の人は出来ない勇敢な行為を登場人物が行い、結果として成功するにせよ失敗するにせよとんでもないことが起きるといったことがドラマの類型であるなら、小林pが園田pに大逆転を許したドラ切り、そして放銃は、少なくとも筆者にとっては最高のドラマでありエンターテインメントであった。

 1戦目からこんなドラマを見せられては、Mリーグ、やはり視聴は欠かせない。

 

以上

強打

 チーム制の麻雀リーグ、大和証券Mリーグが2018/10/1に開幕した。

 

 様々な点でこれまでと異なるリーグ戦であるが、細かいところで画期的な点としてこれまでの競技麻雀ではご法度とされていながら明確な罰則規定が無かった、あるいは適用されていなかった”強打”が「第9条 4. 強打は禁止としないが、度重なる場合は罰則対象になることがある。」と許可された事が挙げられる。いわゆる「気持ち」の乗った打牌を認めることで視聴者に楽しんでもらおうということだろう。ただ、下手すると暴力的な印象を与えかねない”強打”に拒絶反応を示す方も多い。この条項を盛り込むことに、おそらくMリーグの運営サイドは大変悩み、今尚、不安を抱えていることだろう。

 

 さて、Mリーグの”強打”という話題で中心となっているのは、俳優でもある萩原pであるが、10/2のドリブンズ X 風林火山 X KONAMI X Abemasの第1試合で風林火山・滝沢pに印象深い1打が有った。

 

 ラス目で親番も落ちた南3局、松本pのリーチを受けて以下の手牌。

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 タンピン三色でハネ満ツモ3000-6000でトップの佐々木に迫れる可能性も有る一向聴。リーチを受けて、滝沢pは2ソー,2ピンの受けは無くなるものの、一向聴を維持する松本pの現物の打2ピンとする。強気に打5pも有るが、まあ、なんてこともないように見える一打。

 

 危険でもなければ聴牌でもないこの2ピン、滝沢pは通常とは違う打牌フォームで確かに”強打”していたと思う。”強打”というにはあまりに真っ直ぐ、澄んだ音をしていたが。

 

 しかし、この滝沢pというプレイヤー、むしろ”強打しない雀士”の代表と言ってもいいと思う。なぜ、リーチを受けたとはいえ、現物の2ピンを打つのに強打したのだろうか?見返してみると7順目のやはり素人目にはなんでもない西を打つ際にも、若干の、そして心地のいい”強打”をしていた。

 

 打たれた牌自体は両方ともなんてことのない牌だが、手牌を見てみると、打西の時は安全牌を抱えず手牌を中張牌で目一杯にする打牌であった。打2ピンは受けは狭くしたとはいえ、ハネ満ツモも見える手牌、やはりこの先に危険牌を引いても押す手だろう。つまり、この2つの打牌において滝沢pは「この手は押すぞ」という意思があったように思う。

 

 滝沢pはこの数年は結果が出せておらず、ドラフト時にも選ばれないだろうと21名の中で唯一欠席していた。実力が足りていないかもしれない自分が最高峰の1つであるMリーグでどのような麻雀を打つべきか、選手それぞれ大なり小なり思い悩んでいるだろうが、滝沢pは最も苦しんでいる選手かもしれない。

 

 そんな滝沢pの意外な”強打”は、不安を抱えながら「パフォーマンスとして”気持ち”を込めた”強打” を認める」としたMリーグに対する、「認めて頂けるなら、自分は”強打”に”意思”を込めます」という滝沢pなりの回答であったように思う。

 

 もちろん、筆者にとって心地よかったからといって無辜の視聴者を威圧しかねない”強打”を肯定することにはならない。勝ちに徹する事が麻雀プロのあるべきだ姿という人には、手牌がバレかねない打牌に”意思”を込めるなんて行為は愚かとしか言いようがないだろう。そもそも、滝沢pはただ何となく”強打”しただけという方が実際だろう。

 

 それでも尚、この一打を視て聴く事が出来ただけでも、3時間に及ぶ放送を視聴して良かったと、ただ純粋にそう思った。

 

以上