麻雀番組視聴録

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ジレンマ

 RTDリーグ2018準決勝が終了した。鈴木たろうp,小林p,内川p,瀬戸熊pが決勝進出となった。選手、誰にとっても厳しい戦いであったが、ある意味そのために麻雀プロをしている面もあるはずなので、それは本望だろう。ただ、最終日を目無しで打った猿川pにとってはそういったやり甲斐とは遠い辛い試合であっただろう。そして、それは最終日を断トツトップで迎えほぼ何をしても決勝進出が決まっていた、たろうpも同様であったように思う。

 

 ゼウスというこれ以上はない大仰な呼び名にも、独創的かつ豪放、それでありながら理に裏打ちされた打牌の前では誰も異を唱えない。しかし、卓を離れた時のその振る舞いは、意外に優しいを通り越して臆病にすら見える。既に断トツだった準決勝3日目の清老頭。Abema TVのコメント欄も最大限に盛り上がった和了。後日、放送された楽屋裏での第一声は、照れ隠しもあろうが、「空気読めない和了でコメント欄で叩かれてないかな」とのものだった。そもそも、清老頭和了自体、その自摸は強打とはまったくかけ離れた、500-1000でもあるかのような優しいものだった。

 

 準決勝の順位が上の選手には決勝戦終了時に同点の場合、優勝というアドバンテージが与えられるが、8試合の決勝で同点となった事は聞いたことが無い。やはり、準決勝で選手が目指す唯一絶対の目標は「8人中上位4人に日入って決勝進出する」しかない。たろうpは最終日の3戦、トビラス3回でもさらに余程の不幸がない限りこの目標を達成できる。

 

 準決勝最終日の初戦、前回の記事で危惧した通り絶好調の内川pにかなり余裕のあるトータル2位の小林pが放銃しラスになる展開となった。そして南2局、親番で内川pが抜けたトップになり2~4位の佐々木p,たろうp,小林pが競りの状態となる。ここで、小林pに打5ピンで4-7ピン待ちの役牌ドラ3の面前聴牌が入り、たろうpが既に鳴いて聴牌を入れていた内川pをケアして4ピンを放銃した。これが決定打になり内川p-小林p-佐々木p-たろうpの順で終局する。

 

 半荘終了後のインタビュー、聞かれるともなく、落ち込んだ様子で、たろうpは「打5ピンで小林pに聴牌入ってるとは思ったんですが...」と語っていた。しかし、ラス落ちとなったその放銃は、はたして落ち込むような失着だっだのだろうか?前述した通り、たろうpが目的である決勝進出を果たすためにはトビラス3回で対局を終わらせることなのだ。それなら、あの南2局、いや最終日の全ての局でたろうpのやるべき事は「親に連荘されて大量失点しない」つまり「自分、もしくは子の和了で局を進める」といっていい。ならば、ラス落ちしながらも局を進めた打4ピンは失着どころか正着だ。少なくとも悪い手ではない。インタビューでも胸を張って「局を進められて良かった」と言っても良かっただろう。

 

 多分ではあるが、たろうpの方がよっぽど、あの放銃が決勝進出という目的に対して、本当にどうでもいいわずかな差で、正着である事は分かっていたのだと思う。それでもインタビューではあまりに申し訳なさげだった。きっとそれは、あの放銃のもう一つの面も分かっていたからであろう。それが自分の目的達成にほぼほぼ関係なく、にも関わらず、小林pの決勝進出を確定させ、他の選手の決勝進出、特に同卓している佐々木pの決勝進出を極めて厳しいものにする事を。自分の勝利のためならまだしも、あまりにささやかな自分のための選択で、他者に大きすぎる影響を与えた事を。

 

 続く最終日のたろうpの第2戦。ボーダーを争う他の選手が驚異的な大物手の聴牌からの和了牌のビタ止めを連発する中、決勝進出という目的のために放銃してでも親を流すという正着を積み重ねる。

 

 そして、たろうpの最終戦、自身は箱下10万点でも決勝進出、勝又pが奇跡的な超大トップをとって決勝進出なるかという半荘。東一局で子の勝又pのリーチ。親の内川pが降りたか廻ったかを見て、たろうpはドラそば間3ピンのドラ1リーチを打った。常日頃から強いリーチが多く、超大トップが必要な安かろうはずがない勝又プロのリーチに対して、局,半荘単位の期待値ではいくらなんでも損だろう。それでもリーチを打ったのはもちろん決勝進出という最大の目的のため、親の内川pを完全に降ろすためだ。勝又pに満貫,ハネ満,倍満を打っても構わない。

 対局の目的に視聴者からのイメージというものを含むのであれば、こんなリーチ打つべきではないだろう。良くて和了したところで「さすがたろうp、荒らすなぁ」と笑われるだけだろうし。最悪、放銃し、内川pに準決勝トップを取られたら「たろうpは何やってんの」と誹られるだろう。逆にリーチを打たず、消極策で神懸かり的な絶好調の内川pにまくられても「内川pの勢いが凄い」で終わるだろう。それでも、たろうpは決勝進出という目的のため半荘単位の麻雀からすればあまりに歪な間3pリーチを打った。おそらく、最早、目的達成のためですらない。自分はどう打とうと決勝進出でも、究極的なまでにそののために打たなければ、人生を賭けて戦っている他の選手に、どうしたってあまりに大きな影響を与えてしまうことに申し訳が立たなかったのだろう。

 

 決勝戦、基本的には、たろうp,小林p,瀬戸熊pというトッププロの中でも最上位のプロ3人に内川pが挑むという構図に見える。ただ、こと精神面でいえば、鬼やマシーンといった類の瀬戸熊p,小林p、そして、本質はただの好青年であろうが、少なくとも今は神懸かり的な状態に有る内川pに比べ、あまりに、たろうpは凡庸で優しく思える。それでも、決勝では、少なくとも最終戦の親が落ちるまでは、自身の勝利を目指して誰憚ることなく打牌できるだろう。

 神の域に達した打牌選択を行う普通の男が、怪物といっても過言ではない三人を相手にどのような戦いを見せるのか、期待して待ちたい。

 

以上